歯医者で親知らず(埋伏智歯)を抜くときに「稀に神経と接触して顎にしびれなどが残ることがあります」と言われたことを覚えています。私の場合は特に問題は起こりませんでした。
親知らず抜歯に限らず、あらゆる外科治療には合併症・後遺症のリスクがあります。レーシックも例外ではありません。
術後のドライアイ・ハログレアは誰にでも起こるので仕方ありませんが、その他の稀に発生し得る合併症についても押さえておきましょう。
合併症と後遺症について
合併症と後遺症という言葉の定義について説明します。
合併症とは
合併症とは、手術や検査によって比較的早い時期に発症する「患者にとって不利益な症状」です。症状は一時的なものです。
後遺症とは
後遺症とは、手術や検査からの回復後から長期に渡って「患者にとって不利益な症状」が続くことです。
レーシック手術後の合併症、副作用
レーシック手術後の合併症として有名なのがドライアイ・ハログレアです。私も術後数週間ほどドライアイ・ハログレアを発症しました。
その他、角膜に関する炎症などの合併症が稀に発生する可能性があります。レーシックは安全な手術ですが、外科治療である以上は「100%何も起こらない」とは言えません。
したがって手術前に様々な合併症があることを認知しておく必要があります。そして万が一、合併症の症状を自覚した場合は速やかに眼科で治療を受ければ、大事には至りません。
実質内上皮増殖
角膜フラップの下に、角膜表面の細胞(角膜上皮細胞)が入り込む症状です。角膜上皮細胞は体の一部ですので有害ではありません。しかし、フラップの下で角膜上皮細胞が細胞分裂をして増殖すると、濁ったり、凹凸ができて乱視が出たりすることがあります。
軽度ならば問題ありません。視力に影響を及ぼすようであれば、フラップをめくって、入り込んだ角膜上皮細胞を取り除く治療が必要になります。
角膜炎・角膜上皮障害
層間角膜炎(DLK)
手術から1週間以内を目安で、フラップの下(層間)に炎症を起こすことがあります。早期に点眼などの治療を施せば、ほとんどが問題なく回復します。ただし重症の場合はフラップをめくって洗浄するなどの治療が必要になる場合があります。
反復性角膜びらん(再発性角膜びらん)
角膜びらんとは、角膜上皮の一部が剥がれる症状です。角膜びらんは、角膜上皮剥離とも言います。反復性角膜びらんとは、何度も繰り返し角膜びらんになる状態のことです。
フラップは術後から徐々に密着していきますが、その間に目を強くぶつけたり、強い衝撃を受けたりするとフラップの一部が剥がれることがあります。
角膜変性症
角膜変性症とは、透明な角膜に混濁を生じる症状です。全身疾患から生じる場合もありますし、遺伝性で生じる場合もあります。
角膜変性症の場合はレーシック手術を受けることができません。角膜変性症かどうかは適応検査時に検査されます。
点状表層角膜炎(SPK)
点状表層角膜炎とは、角膜上皮に点状の傷を生じることです。
レーシック手術後のドライアイによって症状が発生することがあります。最もポピュラーなコンタクトレンズ障害でもあります。
眼内炎
眼内炎とは、目の中で生じる感染症のことです。
レーシック手術によってできた角膜の傷口から細菌が入り込むことによって発症します。手術後に処方される抗生物質の点眼薬を使用していれば起こることはまずありません。
角膜潰瘍
何らかの原因で角膜が傷つき、傷口から細菌が入り込んで増殖し、角膜組織が崩れていく症状です。
手術後に処方される抗生物質の点眼薬を使用していれば起こることはまずありません。
角膜上皮下混濁
ヘイズ(一過性角膜上皮下混濁)
ヘイズはラセックやエピレーシックで起こることがあります。レーシックで起こることはまずありません。
エピセリウムイングロース(角膜上皮迷入)
レーシックで作成したフラップの下に上皮細胞が侵入し、乳白色の混濁が起こることがあります。
レーシック再手術後に起こることがあります。
サハラ砂漠症候群
フラップの下面に斑状の白い混濁が生じる症状です。特有の遠視や乱視を伴い、術後2〜3週間後に発生します。
原因は明確ではありまえんが、アレルギー反応、感染症などが考えられます。発生した場合は抗炎症剤・抗生物質・マイトマイシンなどの点眼薬で治療します。回復に半年以上かかることもあります。
眼圧上昇
フェイキックIOLで生じやすい合併症です。また、ステロイド系の抗炎症剤によって眼圧上昇したり、緑内障が起こったりすることがあります。
医原性ケラトエクタジア(角膜拡張症・角膜前方変位・スウドケラトコーヌス・偽円錐角膜)
角膜を削った部分が変形して前方に飛び出てくる症状です。重篤な合併症です。
医原性ケラトエクタジアになると徐々に角膜の屈折力が変化します。レーシックをする前より近視になったり、強度の乱視になったりすることがあります。メガネやコンタクトレンズで矯正できないような重症の場合、角膜移植が必要になることがあります。
レーシック後に医原性ケラトエクタジアが起こるケースとして以下が考えられています。
- 円錐角膜で手術を受けた場合(医師が円錐角膜を見落とした場合)
- 手術前の角膜が薄かった場合
- 角膜を削りすぎた場合
対策は以下となります。
- 手術前の適応検査にて角膜の厚さや形状を検査し、「術後に十分な角膜の厚みが残るかどうか」厳密に手術適応性を判断する
- 手術前の適応検査にて円錐角膜どうかを検査する
- 角膜が薄くてレーシックに適応しない場合に無理やり手術を実施しない
ケラトエクタジアを防ぐために、学会では角膜ベッドを250マイクロメートル以上残すように定めています。
ハログレア・スターバースト
術後にフラップが完全に密着していない時に、その部分で光が微妙に乱反射を起こすことがあります。結果、ハロー・グレア・スターバーストといった現象が生じます。
特に強度近視でレーシックを受けた方や、瞳孔が大きい若い方に強く見られます。
術後から1〜3ヶ月も経過する頃には、フラップが密着するとともに、ハログレアの症状も治まります。症状が残った場合でも年齢が進むと消えていきます。
私自身も術後1ヶ月経過するまではハログレアを自覚しました。特に夜間における車のヘッドライトや、自転車のライトを眩しく感じました。
ハロー
明るい光源の周囲が滲んで見える症状です。
グレア
夜間に強い光を見たときにギラギラしたような眩しさを感じる症状です。
スターバースト
明るい光源の周りに光が細く広がって見える症状です。
ドライアイ
術後にほとんどの方がドライアイを感じます。私も手術から2週間ぐらいはドライアイを感じることがありました。通常は1ヶ月ほども経てば治ります。長期的にドライアイが続くと、点状表層角膜炎(SPK)になることがあります。
以下に当てはまる方はドライアイになる傾向があります。
- コンタクトレンズを長期間使用していた方
- 角膜内皮細胞が少ない方
- 角膜が薄い方
- 二重や眼瞼下垂の整形手術を受けた方
- 薄めを開けて寝ている方
ドライアイに対して人口涙液などの点眼薬が処方されますが、常用し続けると涙の分泌量が減り、ドライアイが悪化する可能性もあります。点眼などで改善しない場合には、涙点プラグを鼻涙菅に挿入する治療方法があります。
カフェインを多く含む食品は涙の分泌を減らすので、ドライアイが気になる方は注意が必要です。また、副交感神経は涙の分泌に関わっています。自律神経が乱れないようにしましょう。
老眼の顕在化
合併症ではないですが、レーシックを受けることによって老眼が顕在化します。詳しくは「レーシック後に老眼が早まる」は誤解をご覧ください。
角膜フラップ合併症
マイクロケラトームを使用する場合、角膜を不規則に切開するリスクがあります。結果、下記のようなフラップ形成不全を起こすことがあります。
- フリーフラップ
- シンフラップ
- 不完全フラップ・不規則フラップ
- フラップの位置ずれやシワ
- ボタンホールフラップ
- ウォッシュボードエフェクト
- 角膜穿孔
フェムトセカンドレーザーでフラップを作る場合は、上記のような合併症はまず起こりません。
不完全フラップ・不規則フラップ
不完全フラップとは、フラップが部分的にしかできない現象です。不規則フラップとは、不規則な形をしたフラップのことです。
シンフラップ
作成したフラップが薄すぎる現象です。
ウォッシュボードエフェクト
マイクロケラトームのブレード(刃)によって作られる多数の平行線状の切り口が洗濯板のようになり、光を散らつかせる症状です。
角膜穿孔
角膜穿孔とは、マイクロケラトームでフラップを作る際、深く切りすぎて角膜の裏まで切れてしまうことです。角膜が薄い、あるいは円錐角膜などの理由でレーシックに適応しない患者に対して手術を実施した場合などに発生することがあります。
ボタンホールフラップ
フラップが極端に薄く、フラップ中央に穴ができたり、不規則な形になったりする現象です。
フラップ作成不能
マイクロケラトームの固定に必要な眼圧上昇が得られない現象です。
フラップの位置ずれやシワ
フラップを戻した後に微妙なズレやシワができて不正乱視になる場合があります。
軽度ならば問題ありません。視力に影響を及ぼすようであれば、フラップをめくって、ズレやシワを修正する治療が必要になります。
感染症
フラップを作るために切開した角膜の傷口から細菌が入り込んで感染してしまうことがあります。当然病院は手術前後に感染予防対策をしますし、術後は抗生物質の点眼薬をしばらく使用しますが、感染症の危険はゼロではありません。あらゆる外科手術が抱えるリスクです。
重症になると角膜が濁ることがあります。場合によっては角膜移植が必要になることもあります。
角膜異物の残留
マイクロケラトームの金属粉、空気中に浮遊していた術衣の繊維、手術手袋の粉などがフラップ下面に残ることがあります。
フラップを戻す際には顕微鏡で確認しながら入念に洗浄しますが、上記異物が残留する可能性はゼロではありません。
視力への影響はまずありませんが、気になる場合はフラップを洗浄する治療が必要です。
セントラルアイランド
レーシック初期に普及していた全照射式のエキシマレーザーで起こりやすい症状です。レーザー照射中に発生するガスによって角膜中央部の切除が不十分となって起こります。
現在は全照射式に代わってフライングスポット照射式のエキシマレーザーが主流であるため、セントラルアイランドが起こる可能性は低いです。
眼精疲労、頭痛、肩こり
術後しばらくは視力が安定しなかったり、ドライアイになったりするなどで眼精疲労や頭痛、肩こりを感じることがあります。
レーシック手術後の後遺症
後遺症は何年後に現れるのか?
レーシックは1992年からアメリカで開始され、日本では1994年から開始されました。2017年現在では25年以上の歴史がある手術となります。
それ以上の長期予後についてはデータが存在しません。したがって長期予後については不明な部分もある、と言わざるを得ません。
過矯正による目眩、吐き気、うつ症状
レーシックによって稀に過矯正となり、目眩・吐き気・うつ症状を起こすことがあります。
過矯正による遠視は稀ですが、万が一過矯正になった場合は再手術によってほぼ100%の精度で治すことができます。
ハログレア・スターバースト
ハログレア・スターバーストについては先に合併症の項目にて説明した通りです。
通常は時間の経過とともに回復して気にならなくなりますが、症状が長期的に残る人もいます。
特に瞳孔が大きい人や強度近視だった人は症状が残る場合があります。なぜなら、レーザーを照射した外周の部分よりも大きく瞳孔が開くと、角膜の切開部分の光の屈折が見え方に影響するからです。
矯正視力の低下
術後に視力低下が起こり、メガネやコンタクトレンズで矯正をしても、術前の値まで視力を得られないことがあります。
角膜混濁など原因はさまざまです。
コントラスト感度の低下
手術前と比べて、微妙な濃淡の違いを区別できなくなることがあります。
日常生活で自覚するほどコントランスト感度が低下することはほとんどありません。生活には支障がありませんが、眼科で精密な検査をした場合に、コントラスト感度の低下を症状として判断できることがあります。
特に強度近視の目に対してレーシックをした場合や、瞳孔が大きい若い方に発生する可能性があります。
夜間視力の低下
生活に支障が出るようなことはほとんどありませんが、暗い場所だと明るい場所より少し見えづらくなることがあります。夜間に車を運転したり、映画館の後方座席から字幕を見たりする際に支障が出る可能性があります。